提案書づくりは、地味に重い。
市場調査をして、顧客課題を整理して、導入効果を数字で示して、最後にプレゼン資料に落とし込む。分業すれば、それぞれ専門職の仕事になる領域です。
では、これを1つのプロンプトで同時に実行させたらどうなるのか。
今回はAI検索ツール「Felo」に、次の依頼を一発で投げてみました。
目次
実験に使用したプロンプト
日本の中小企業向けにGoogle Workspaceの導入提案を行うため、市場背景と顧客の課題を調査したレポートを作成し、導入効果を示すインフォグラフィックを1枚生成し、最後に5枚構成の営業用プレゼン資料を作ってください。
やらせたことは4つ。市場調査、顧客課題の整理、インフォグラフィック生成、営業用プレゼン資料の作成。いわば「提案業務の丸投げ」です。
プロンプトはFelo AI公式Xを参考にしました。
1. 出力された成果物:想像以上の完成度だった
結果は想像以上でした。Feloが1回の指示で出力してきたのは、次の3点セットです。
① 市場背景と課題を整理したレポート
「ひとり情シス」問題、システムの分散と管理の複雑化、ペーパーレス化の遅れ、テレワーク対応の障壁——日本の中小企業が直面するIT課題が、整理された章立てで出力されました。Microsoft 365との機能・料金比較表まで含まれており、競合比較の初稿としても使える水準です。
② 導入効果を数値で示したインフォグラフィック

「IT運用コスト30%削減」「会議時間25%短縮」「データ漏洩リスク80%低減」といった数値を視覚化した1枚画像が生成されました。5つの導入メリットをアイコンと数字でまとめた構成で、営業提案の補足資料として機能するレベルです。
③ ISSUE→SOLUTION→GOAL型の5枚構成プレゼン
表紙、課題提示(4つの相互課題)、ソリューション提案、期待効果(ROI)、導入ロードマップという流れで構成された提案資料が出力されました。ストーリーの骨格が崩れておらず、スライドの情報密度も過不足が少ない。
叩き台として評価するなら、100点に近い完成度でした。構造は破綻していない。ストーリーも自然。数字とビジュアルも揃っている。「ここまで一発で出るのか」と、素直に驚きました。
2. ただし、このまま使えるか? 答えはNOです
完成度が高い一方で、冷静に見ておくべき限界があります。
(1)数値の出典が明示されていない
「IT運用コスト30%削減」「リスク80%低減」といった数字は、それなりに説得力のある水準感ではあります。ただ、BtoBの営業現場では「この数字はどこから来ているのか?」という問いは必ず発生します。出典が曖昧なまま提案資料に載せると、商談の途中で信頼性ごと崩れるリスクがあります。
(2)記述が一般論で止まっている
レポートもプレゼンも、構造は正確ですが内容は汎用的です。目の前の顧客の業種・規模・IT成熟度に合わせた解像度は、当然ながら含まれていません。「どの企業にでも通じる資料」は、「誰の心にも刺さらない資料」と紙一重です。
(3)ファクトチェックは人間の仕事
AIは嘘をつこうとしているわけではありません。ただ、指示が抽象的なほど「平均的にそれっぽいもの」を出力します。これは弱点というより仕様です。最終的な事実確認と責任は、使う人間の側にあります。
まとめると、70点の素材を爆速で生成する装置としては最強。ただし、最終責任は人間が持つ。この前提を外すと、AIツールの評価を誤ります。
3. この実験で見えた本質
今回の最大の発見は、ここです。
AIは「思考の代替」ではなく、思考の加速装置である。
ゼロから構造を組み立て、章立てを考え、数字を探し、スライドに落とし込む——その作業の大半をAIが引き受けてくれます。ここに費やしていた時間は、確実に短縮されます。
ただし、鋭さや戦略性は人間の設計次第です。
たとえば今回の出力は「中小企業向けGoogle Workspace」という汎用的な題材だったため、誰にでも通じる資料になりました。逆に言えば、「製造業・従業員50名・Excelヘビーユーザー」という前提を最初に与えていれば、まったく異なる解像度の資料が出てきた可能性があります。
勝負はプロンプトの設計にある——これが今回の実験を通じて得た、最も実践的な気づきです。
4. 精度を上げるために必要な4つの改善
実験を踏まえて、次にやるべきことは明確です。
(1)前提条件を具体化する
対象企業の規模(従業員数)、業種、現在のIT環境、IT担当者の有無、課題感——これらをプロンプトに含めるだけで、出力の解像度は大きく変わります。「中小企業」と書くのと「従業員30名・建設業・Excelとメール中心・IT担当なし」と書くのとでは、生成される資料の具体度が別物になります。
(2)出力構造を固定する
「市場規模(出典付き)」「導入事例(実社名または業種・規模を明示)」のように、各セクションの形式をプロンプト内で指定することで、出力のばらつきを抑えられます。
(3)出典明記を義務化する
BtoB営業資料として使うなら、数値には出典が必要です。「数値はすべて出典を付記してください」とプロンプトに一文加えるだけで、後工程のファクトチェックが格段に楽になります。
(4)一発生成ではなく段階的に分解する
「調査→設計→資料化」を一度に処理させるのではなく、ステップごとに確認しながら進める方が、最終的な精度は上がります。特に重要な商談に使う資料は、段階的な生成フローを組む価値があります。
精度を上げるとは、AIを賢くすることではなく、不確実性を削ることです。これは、部下への指示の出し方と本質的に同じです。
5. 営業の価値はどこに残るのか
今回の実験を通じて、少なくとも言えることがあります。
提案書作成業務の70〜80%は、AIで加速できる可能性がある。
具体的には、市場調査の初稿、資料構造の設計、ビジュアルのラフ作成——このあたりは確実に変わります。繰り返し発生する定型的な提案作業のコストは、大幅に下がるはずです。
では、営業の価値はどこに残るのか。
- 顧客理解の深さ(この会社は何に困っているのか)
- 仮説の質(なぜ今この提案なのか)
- 意思決定を動かすストーリー設計
この部分は、むしろ重要性が増します。AIが資料の「形」を作れるようになるほど、人間が作る「意味」の価値が際立ちます。
AIは資料作成係にはなれます。でも、意思決定の場を設計する演出家にはまだなれない——少なくとも、現時点では。
6. 次の一歩:「使ってみた」から「仕組みにする」へ
今回の実験はまだ序章です。
検証したいことはまだあります。他のモデルとの比較、実案件での精度検証、プロンプトの標準化、業務フローへの組み込み。ここまで踏み込めば、単なる生成遊びではなく、営業プロセスの再設計になります。
AIをどう使うか——これは技術の問題ではなく、設計の問題です。
「使ってみた」の先にあるのは、「どう仕組みにするか」というフェーズ。そこからが本当の意味での業務変革です。
仕事の構造が変わる瞬間は、いつも静かに始まります。今回の実験は、その小さな入り口だったかもしれません。
関連サイト
- Felo – https://felo.ai/ja/search




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